心臓弁膜症

心臓弁膜症とは

弁膜症心臓は4つの部屋でできており、左心房・左心室・右心房・右心室と分かれています。部屋と部屋の間や部屋と血管の間には、逆流を防ぐために開閉する弁があります。
心臓弁膜症はこの弁が何らかの理由によって正常に動かなくなる状態です。弁が機能しなくなる原因としては、加齢や感染、外傷、先天的な異常などがあげられます
一般的に、弁が狭くなって血液が通りにくくなる状態を「狭窄症」、弁が閉じなくなって血液の逆流が生じる状態を「閉鎖不全症」と呼びます。
心臓弁膜症はどの弁でも起こりますが、大動脈弁と僧房弁という弁の異常がほとんどで、その割合は95%以上と報告されています。


心臓弁膜症の症状

弁膜症の発症初期の頃は自覚症状がほとんどありません。しかし、弁の異常を放置したまま時間が経過すると心臓に負担が加わり続けるため、心臓の機能が徐々に低下して心不全の状態を引き起こすことになります。その結果、呼吸困難、むくみ、息切れなどさまざまな症状が生じます。また、心臓への過度な負担が続くことによって心房細動などの不整脈を合併することもあります。

心臓弁膜症の原因

先天性異常

心臓弁膜症は生まれつき心臓の形や作りなどに異常があることで、発症するケースもあります。心臓の弁の数や形状に異常があるケースや、弁の厚さや硬さに異常があるケースがこれに当てはまります。

炎症や感染症

心臓弁膜症は心臓の弁に炎症や感染が起こることで発症するケースもあります。リウマチ熱や感染性心内膜炎という病気にかかることで、弁が傷ついたり狭窄したりすることがあります。

心臓病や他の病気

心臓弁膜症は心臓や他の病気が進むことで発症するケースもあります。例えば、高血圧や心筋梗塞、拡張型心筋症などの病気にかかると、心臓の弁への負担が大きくなり損傷や機能障害が起こりやすくなります。

心臓弁膜症の検査

聴診

心臓弁膜症のある方に聴診を行うと、異常な弁の音や雑音が聞こえることがあります。
特に弁が狭窄している場合は心臓の収縮と共に雑音が聞こえ、弁の閉鎖不全がある場合は逆流音が聞こえます。

心電図

心電図は心臓の電気活動を測る検査です。心臓弁膜症にかかっている状態で心電図を受けると、心電図に独特なパターンが出ることがあることから、心電図検査も有用とされています。

超音波検査(心エコー検査)

心臓弁膜症を調べる上で、一番重要な検査と言えるのがこの超音波検査です。超音波検査は、心臓の形や機能をチェックするために行われます。超音波の反射波を使って心臓の写真を作成し、心臓弁に異常や機能障害がないかを確かめていきます。超音波検査では、弁の大きさや開閉の具合、血液の流れなどが調べられます。

心臓弁膜症の治療

定期観察

心臓弁膜症自体の治療は手術になりますが、現時点で手術の適応でない場合は定期的に超音波検査等でフォローアップが必要となります。弁膜症の程度が軽度で自覚症状もない場合はフォローアップが不要な場合もあります。

薬物療法

心臓弁膜症により心不全となることがあり、心不全をコントロールするために利尿薬などで症状を緩和させることがあります。その他、血圧を下げる薬や不整脈の薬を使うこともあります。

外科手術(弁形成術・弁置換術)

外科手術では人工心肺装置を用いて、心臓を切開して手術を行います。通常、前の中央にある胸骨を縦に大きく切開する「胸骨正中切開」という方法で手術が行われますが、近年は肋骨の間の小切開のみで行う低侵襲心臓手術(MICS:ミックス)も行われています。
弁を直す手術には、弁形成術と弁置換術の2種類があります。
弁形成術はご自身の弁やその周囲の形を整えることで、弁の機能を回復させる手術です。
弁置換術は傷んだ弁を人工弁に置き換える手術です。人工弁には生体弁と機械弁の2種類があり、それぞれに特徴があります。

生体弁

生体弁は身体に馴染みやすいのを特徴としており、血液の流れに合わせて自在に動くことができます。ただし、機械弁よりも耐久性が低く、10~20年程度で再び手術が必要になる場合があります。

機械弁

機械弁はとても丈夫なため、長期間使用することができます。そのため再び手術するケースはあまりありません。しかし、血栓を防ぐためにワルファリンという血をさらさらに保つ薬(抗凝固薬)を一生飲み続ける必要があります。

カテーテル治療

経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI:タビ)

大動脈弁狭窄症の治療方法として2013年から日本でも認可された方法で、カテーテルを用いて人工弁に置き換える治療法です。高齢者や外科的手術のリスクが高い方に選択されます。一般的には太ももの付け根の血管からアプローチをしますが、心臓の先端からアプローチをする方法などもあります。

経皮的僧帽弁接合不全修復術(MitraClip:マイトラクリップ)

僧帽弁閉鎖不全症を治すための手術であり、外科的手術である弁形成術や弁置換術の危険性が高いもしくは不向きである方に対して行われます。太ももの付け根の静脈から管を入れて、心房中隔(右心房と左心房の間の壁)というところに穴を開けます。そこからクリップの付いたカテーテルを左心房に入れ、逆流する僧帽弁の先をクリップで繋げていきます。これにより僧帽弁のところの逆流が少なくなります。

経皮経静脈的僧帽弁交連裂開術(PTMC)

僧帽弁狭窄症に対して行われる治療であり、「イノウエバルーン」という特殊なカテーテルを使用する方法です。僧帽弁狭窄症はリウマチ熱という幼少期の細菌感染がほとんどであり、近年は抗菌薬投与の割合上昇などにより、頻度は少なくなっています。

心臓弁膜症の種類

大動脈弁狭窄症

大動脈弁狭窄症は加齢や高血圧などで大動脈弁が石灰化し硬くなることで、大動脈弁が開きにくくなります。心不全や突然死を引き起こす病気であり、無症状であっても重度の場合は手術やカテーテル治療を行うことがあります。

大動脈弁閉鎖不全症

弁自体の構造の異常や血管の異常により弁の閉じが悪くなり、血液が逆流してしまう病気です。
心不全の原因となり、息切れ、動悸などが出ることがあります。

僧帽弁狭窄症

幼少期にリウマチ熱(細菌性の病気)にかかったことで弁と弁がくっついてしまった結果、弁が開かなくなる病気です。抗菌薬の投与により近年では患者数が少なくなっています。
心房細動という不整脈を発症する可能性があり、脳梗塞にかかるリスクも高いので注意が必要です。

僧帽弁閉鎖不全症

僧帽弁閉鎖不全症は僧帽弁が閉じにくくなり、血液が逆流してしまう病気です。心不全の原因となり、心房細動という不整脈を起こすこともあります。

三尖弁閉鎖不全症

三尖弁が閉じられず、心臓から右房へ血液が逆流する病気です。右心室にかかる負担が多くなり、右心不全という状態に至ることもあります。発症すると、腹部の張りや食欲不振、むくみといった症状が現れます。